機嫌の取りかた

自分の機嫌を取ることで世界を維持する。8歳と5歳の娘と夫と、東京の端で暮らす。

文具女子になりたかった私の話

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出典:文具女子博

文具女子博(2019年12月12日〜15日)に行ってきた。文具が好きだから…は半分合っているけど、もう半分は文具女子になりたかったからだ。

「大切」な文具

15〜20年ほど前、私は文具女子だった。その頃の文具売り場は今ほどバラエティに富んではおらず、カードやメモ帳、レターセットやシールが主体だった。足繁く文具売り場を巡り、素敵なデザインの文具を見つけてはコレクションした。その頃の文具は、キラキラと光を放っていた。

その光が翳り始めたのは、可処分所得を飲み会や遊び、ライブに多く割くようになったあたりから。会社に入って、文房具は会社が支給してくれることを知ったことも大きい。自然と文具売り場へ足を伸ばすことも減った。100円均一の登場で、文具が気軽に手に入るようになって、希少性が薄れたこともあるかもしれない。

そうこうしているうちに実家から引っ越しをすることになった。荷物を整理し始めたら、ひとつひとつ選んだ文具たちが、ホコリを被って出てきた。その時にはもうキラキラは消えてしまっていて、ひとつひとつの文具に謝って 、捨てながら、あぁ、私は大切にしすぎてしまったんだなと思った。それからずっとずっと、文具からは足が遠のいていた。

打ち砕かれるシタゴコロ

それが今、文具女子博に行こうと思ったのは、たまたまネットで記事を見かけて、たまたまバイトが休みで、たまたま「何か打ち込めることはないかな」と漠然と考えていたから。昔あれだけ心をときめかせた文具が、巡り巡ってまた私の心をときめかせてくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて会場に向かった。

平日のせいか会場は思っていたよりもすいていて(もちろん多いは多いけど)、限定品も目的の品もない私はブースを端から端まで覗いた。

私が文具と距離が開いてから世では急速にインターネットが普及し、なんでもかんでもデジタルになった。だからその分アナログの世界が先鋭化して、モノとして残すことが重要視され、それにまつわる文具が増えた気がする。

さまざまなフォーマットのノートやダイアリー、機能も色も豊富なペンやインク、手軽にデコれるマスキングテープやフレークシールにハンコ…そんな文具がずらりと並ぶ。

カードやメモ帳、レターセットなど、「誰か」に向けた品ももちろんあるけど、ここにある文具が向かう方向は圧倒的に「私」であると思った。お気に入りの文具で、私の毎日を記す。文具女子界ではアナログでのライフログが流行ってるんだなぁ…と、あくまで私の主観ではあるけど、そう感じた。

「だとすると、私は文具女子ではないな」と、歩調が緩んだ。

私は日記を毎日書くことが苦手だ。数日書いてその後真っ白な手帳が何冊あっただろう。ほぼ日を手に入れて1日目にして「私の今日に、こんなに記すようなできごとはない」と思ったし、ウィークリー部分に3行程度でも…というのも続かなかった。とにかく続かない。

毎日のコーデをイラストにして素敵にデコってるのをinstagramで見かけるたび、絶えず自分の納得がいくクオリティのものを出し続けられるパワーに圧倒される。

もちろんみんな界隈で流行っているからやっているわけではない。楽しくてやる人が多い。だからそれに合わせてメーカーも提案してくる。全体が盛り上がる。そこから新しいムーブメントも産まれる。そしてもちろん、それに合わせる必要もない。

でも、「ここにきたら素敵な何かがあるかも!」なんて下心全開できた私には、少々居心地が悪かった。生半可な気持ちで来てすみません。

出会いは、突然に

もう帰ろうかと出口に向かっていたところ、会場の端で私は足を止めた。

ペンだ。水性ペン。筆芯と細芯のツインマーカー トンボ鉛筆「ブラッシュペンABT」だ。

www.tombow.com

そのスターターキット的な、イラストレーターおすすめ5色と水筆、小冊子のセットが目に止まった。

試し書きすると、筆ペンなので伸びよく、発色もよく、水筆を使うと簡単に水彩絵の具のようににじませることができる。カリグラフィに多く使われるようだけど、もちろんイラストにも使える。

正直似たようなペンは他メーカーからも出ているだろう。だけどセレクトされた5色のペンは、何かこちらに訴えかけているようだった。

いやいや知ってる、私、水彩鉛筆買って結局何も描いてない。これも同じ運命をたどるはず。会場限定50%オフだからって安易に手を出しちゃいけない。そうして会場を後にし、トイレに入って、出てきた私の足は、まっすぐ会場へと戻り、トンボブースの「ブラッシュペンABT アーティストコラボセット」を手にして会計へと向かっていた。

新しいキラキラ

帰り道の電車の中で、私はたまらずセットの封を開けた。

キラキラしていた。久しぶりに見たキラキラだった。

なんだかすごく大切にしたくなった。このペン達と長く付き合いたいと思った。大切にしすぎてホコリをかぶってしまった20年前の文具たちのような大切さではなく、使って、大切にしたいと思った。

Instagramに載っているような素敵なオリジナル作品を毎日描き続けなければダメ」と、会場の多くの文具達を素通りしてきた。そうでなくていいのかもしれない。この気に入った文具を、できる範囲で使えばいいだけなのかもしれない。だとしたら何ができるだろう?

電車を降りて、小さな本屋に入った。アートコーナーの端にあった、塗り絵を手にした。

かんたん かわいい ぬり絵帖 (レディブティックシリーズno.4210)

かんたん かわいい ぬり絵帖 (レディブティックシリーズno.4210)

 

塗り絵はオリジナル作品じゃないーーだから価値がないと思い込んでいた。でも、この塗り絵をやることで、ペンを使うことができる。大切にできる。それで十分だ。

なにぶん小さい本屋で、水彩用ではなく色鉛筆用の紙を使った塗り絵しか置いてなかったので、ところどころ紙が剥げたり裏写りがあったりもした。

だけど最初の1ページを塗り終えて、世界がキラキラした。

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私は文具女子だ。

★実験的にnoteにも同内容を掲載しています