機嫌の取りかた

自分の機嫌を取ることで世界を維持する。8歳と5歳の娘と夫と、東京の端で暮らす。

ただのオバさんでいいのだと気づいた時の話

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ある日私は、Instagramの「🔍」に表示される「私好みでない画像や動画」をひたすらブロックし、「このような投稿の表示を減らす」をタップしまくっていた。

私はお菓子のデコレーションをするのも見るのも好きだ。いろんな作家をフォローしつつ、私好みの画像がサジェストされた「🔍」を見ては心をときめかせている。

宝石のようなアイシングクッキー、果物が盛りだくさんのタルト、バタークリームやあんこでできたフラワーケーキ、色とりどりのマカロン、パティシエの技巧が詰まった動画…

私の心をすーーっとさせる、画像や動画たち。ひたすらに、かわいいお菓子たちを眺める、至福の時間。

そこにニュッと現れる、「私好みでない画像や動画」たち。

毛穴から脂を絞り出す動画、月収10万円台だけどポイ活でラクラク専業主婦(クソダササムネ)、DV元彼と別れた話Vol.11、ボトックス注射をする動画、はあちゅうの漫画。

あーーーもう私の世界に入ってくるなー!消えろー!

1秒も見ていたくない、すぐさま消え去ってほしいが、このまま放っておくといつまでも「🔍」に表示されるから、好ましくない画像や動画が表示されたらすぐさま、ブロック&このような投稿の表示を減らすをタップ。ひたすらタップ。

そうしてどんどん「🔍」から好ましくないものを消していると、「はて、私はなんでこんなことしてるんだろう?」という疑問が湧いてきた。

見たくないものを見たくない、それはわかるが、なぜそこまで執念を燃やして不快な画像や動画を締め出しているのか。リフレッシュすれば消えるし、目に入っても一瞬だから気にしなければいいのに。でも許せない。心ときめく、かわいいものの横に、不快な画像があるのが心底許せない。一瞬でも表示されて欲しくない。消えろー!!!

そうか、心ときめく、かわいいものが好きだからだ。

そんなん当たり前だろう、という答えだが、これに気づいた時、雷が落ちたような衝撃を感じた。北島マヤヘレン・ケラー並みの衝撃だ。

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私はこのお菓子のデコレーションという趣味がとても好きだったが、一方で何かプレッシャーのようなものを感じて、心から楽しめていない気もしていた。

「こんな素敵なお菓子を作りたい!」と思い、本を読んだり、動画を見たり、教室に通ったり。最初はできるようになっていくのが楽しかったけど、作れば作るほど、「まだまだあの人のような素敵なものはできない」「知らない人は”プロレベルだよ”というが、全く通じるものではない」「趣味も極めてプロレベルにならなければいけない」「睡眠や貯金を削ってまで没頭するほどの情熱はない」という謎の下降ループに入り、身動きができないような気がしていた。

でも、いいんだ。心ときめく、かわいいものが好きだから、お菓子のデコレーションをする。それでいいんだ。

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その衝撃は、趣味だけではなく、私の中でずっとくすぶっていたデザインへの想いも揺さぶった。

私は高校くらいからデザインを始めて、社会人になってからかれこれ11年くらいデザイナーをしていた。デザインが楽しかった。デザインに飽きたからデザインをするくらいで、デザイナーであることが自分のアイデンティティだった。

それが絶たれたのは、前職でパワハラ上司にぶち当たって病んでしまったからだった。デザインを否定されたわけではないけれど、とにかく疲弊してしまって、それに加えて家庭の事情もあって、デザインとは関係のない、近所の事務のパートになった。

畑違い+早々の繁忙期で、最初の数ヶ月はひたすら走っていた。しかしそれも落ち着いてふと「このままデザイナーという職を手放していいのだろうか?」と思うことが多くなった。

デザインの世界は流れが速く、一度離れてしまうと二度と追いつけない感覚があった。事務のパートに慣れるうち、デザイナーの自分が一歩、また一歩と遠くなっていく。

今もネットでデザイン関連の情報をキャッチアップしている。時々デザイン書を手に取る。ーー使う場所もないのに。

私にとってデザインってなんだったの?デザイナーでない自分とは?あんなに好きだったデザインをしていない自分に価値はあるの?

もやもやぐるぐるドツボにはまってもがき苦しみ沼に沈んでいたところ、さっきの雷鳴がこちらにも響いてきた!

心ときめく、かわいいものが好き!
だから私、デザインが好き!

なんだこれ、春〜Spring〜か!


春〜spring〜 Hysteric Blue

そうか、私の芯は、「心ときめく、かわいいものが好き」なんだ。デザイナーかデザイナーじゃないかじゃない。心ときめく、かわいいものを見て、作る。それが好きな、ただのオバさん(本厄)。それだけなんだ。

なにそれ、こじらせすぎでは?

そう、こじらせすぎていた。好きだから、重たい鎧やアイテムを背負いこんで、身動きが取れなくなっていた。

前線で活躍するデザイナーだったり、プロ並なお菓子デコ作家でなくても、心がときめいて、かわいいものが好きなオバさんである自分がいる。そんな自分が、良い。

Instagramに投稿したお菓子にあんまり♥がつかなくても、事務パートがない日にデザイン書をパラパラめくっても、それでいい。自分でそれがいいと思うのならば、それでいい。

すっきりさっぱりデザイナーを諦めたのか?というとそうでもないし、できればいつか、自分のお菓子の店を持ちたいというほんのりとした想いはあるけど、そこに大義名分だったり、肩書きだったり、そういったものをつけるのはやめよう。

私は、心ときめく、かわいいものを見て、作ることが好きな、ただのオバさんだから。

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